非常用ラジオと聞いて思い浮かぶのは、たぶん押し入れの奥、防災リュックの底に押し込まれた無骨な箱だろう。ところが最近棚に並んでいるものは、少し様子が違う。丸みを帯びたフォルム、迷いのない配色、アンテナの立ち方までどこか凛としている。しまうためではなく、部屋に出しておくために作られたものだと、一目でわかる。
「非常時専用」から「日常でも使う」へ
防災用品を扱う事業者の解説によれば、2026年の防災グッズには大きく四つの変化があるという。一つは「フェーズフリー化」——非常時だけの特別な道具ではなく、普段の生活の中でも使える設計へのシフトだ。ほかにもIoTやAIを搭載したスマート化、再生可能素材や太陽光充電といった環境配慮設計、そして高齢者や子どもなど家族構成に合わせたパーソナライズ化が進んでいるという。防災グッズはもはや「いざという時のためだけの重い荷物」ではなく、日々の生活道具のひとつとして設計されつつある。
2026年の防災グッズは、①非常時専用から日常でも活用できる「フェーズフリー化」、②IoT・AI搭載によるスマート化(緊急アラームや位置情報共有など)、③再生可能素材や太陽光発電充電器などの環境配慮設計、④高齢者・子ども向けなど家族構成に合わせたパーソナライズ化、という4つの方向で進化している。(記事の要点を編集部で要約)
出典:エイコー株式会社「2026年の防災グッズはここが違う!今後のトレンド」
市場のデータもこの動きを裏づけている。EC3モールの販売データを分析したレポートによれば、防災用品のEC市場は2024年に前年比3.3倍という急成長を見せ、2025年は前年からは落ち着いたものの、2023年比ではなお約2倍の水準を維持しているという。大きな災害が続いたことが直接の引き金ではあるものの、それだけでは「デザイン性」まで進化した理由の説明にはならない。
EC3モールにおける防災用品市場は、2024年に前年比3.3倍の急成長を記録。2025年は前年比約41%減少したものの、2023年比では約2倍の水準を維持した。カテゴリ別では携帯・簡易トイレが売上トップに浮上している。(記事の要点を編集部で要約)
出典:Nint(ニント)「防災グッズ市場の規模と売上推移|EC3モールのデータ分析」
隠すものから、持つ理由になるものへ
需要が増えるだけなら、安くて機能的な箱がたくさん売れれば済む話だ。それでもメーカーがわざわざ「見せてもいいデザイン」に力を入れるのは、防災グッズの立ち位置そのものが変わったからだろう。以前の防災グッズは、災害という望まない未来に備えるための、いわば「保険」だった。保険は目立たないほうがいい。ところが今の防災グッズは、リビングに置いてある時点で、持ち主の暮らし方や価値観を映すインテリアの一部として機能し始めている。無骨な箱を押し入れに隠す生活から、洗練されたラジオを棚に飾る生活へ。中身の役割は変わっていないのに、それを持つ理由が「もしもの安心」から「今日の部屋になじむかどうか」へと足されている。
これは、必需品というジャンルに、生活雑貨という文脈をもうひとつ重ねただけとも言える。機能はそのまま、置き場所と見た目の許容範囲を変えただけで、手に取る人の幅がぐっと広がる。防災を特別な準備としてではなく、普段のインテリア選びの延長として考えられるようになったとき、備えは初めて「隠さなくていいもの」になる。
次に買うなら
今度、防災グッズを買い足す機会があったら、性能表だけでなく、部屋のどこに置きたくなるかも一緒に考えてみてほしい。出しっぱなしにできるものは、結局いちばん使われる。そしてよく目にするものほど、いざという時に手が伸びやすい。