シャッターを押しても、その場では何も見えない。うまく撮れたかどうかは、現像するまで分からない。撮り直しはきかず、一本で撮れる枚数も限られている。そんな不便のかたまりのようなフィルムカメラや「写ルンです」に、スマホしか知らないはずのZ世代が、いま夢中になっている。
数字は、静かに戻ってきている
フリマアプリのメルカリのデータを紹介した報道によると、フィルムカメラの取引件数は2026年3月に前月比120.5%と伸び、インスタントカメラも卒業旅行シーズンに同120.9%を記録した。2025年にはインスタントカメラの取引件数がサービス開始以来の過去最多となり、2021年比では約2.3倍に拡大したという。中古市場で選ばれる人気ブランドの首位は、富士フイルムだと伝えられている。
参考: フィルムカメラ・インスタントカメラの再流行に関する報道。
出典:オタク総研「Z世代で『チェキ』『フィルムカメラ』需要急増、メルカリは『写ルンです』再流行で富士フイルムが圧倒的首位」
「待つ時間」と「一発勝負」を、あえて買う
なぜ、わざわざ不便を選ぶのか。報道では、その場で確認・加工・共有できるスマホとは対照的に、現像までの「待つ時間」や、やり直しのきかない「一発勝負の特別感」を、あえて贅沢として楽しむ層が広がっている、と分析されている。SNSには「加工しすぎた写真に飽きた」「偶然の一枚が撮りたい」という声があふれているという。
TONEは、ここに一貫した時代の気分を見る。無限に撮れて、いつでも消せて、いくらでも直せる。その完璧な自由に、人はどこかで疲れてしまった。フィルムの「一枚しか撮れない」という制約は、不自由であると同時に、その一枚を大切にする理由になる。撮り直せないからこそ、目の前の瞬間に集中できる。効率のまったく逆にある体験に、いま価値が宿っている。
失敗が、思い出になる
もうひとつ大きいのは、コントロールを手放す快感だと思う。ピントが甘かったり、光が漏れたり、思ったのと違う色が出たり。フィルムの「失敗」は、デジタルなら消してやり直すものだ。けれどフィルムでは、その偶然こそが、あとで見返したときにいちばん愛おしい一枚になったりする。完璧に管理された画像の海の中で、コントロールできなかった痕跡が、逆に「本物」の手触りとして残る。
これは、TONEがずっと見てきた「あえて非効率を選ぶ」流れの、もっとも純粋な形かもしれない。純喫茶の遅い時間も、フィルムの待つ時間も、求めているものは同じだ。急かされない時間と、やり直せない一回性。次の休みに、もし押し入れに古いカメラが眠っていたら、一本だけフィルムを入れてみてほしい。二十四枚しか撮れない不便さは、きっと二十四回ぶんの「ちゃんと見る」を連れてくる。