下北沢の駅を北口から出て、細い路地に一歩入る。数メートルおきに古着屋の看板が現れ、店先のハンガーラックが歩道までせり出している。休日の午後、店内をのぞくと、客の多くは10代から20代前半。かごいっぱいのTシャツを一枚ずつめくる横顔は、宝探しのそれだ。繊研新聞によれば、下北沢の古着店はこの5年で約2倍に増え、いまや200軒を超えるという。街そのものが、巨大な古着のアーカイブになっている。

「安いから」を、もう誰も言わない

かつて古着は、お金のない若者の選択肢という側面が強かった。だが今の下北沢を歩くと、その空気はもうない。7,000円のヴィンテージTシャツにためらいなくレジへ向かう客がいる。安さで選ぶなら、ファストファッションの新品のほうが安い場合すらある。にもかかわらず古着が選ばれるのは、値段ではない別の価値が働いているからだ。

ダイヤモンド・オンラインは、Z世代を中心とした流れを「第2次古着ブーム」と呼ぶ。無人販売店のような新しい業態も生まれ、市場規模は2025年に約6,230億円まで拡大したとされる。もはや一過性の流行ではなく、産業として立ち上がっている。

一点ものという、静かな自己主張

TONEが現地で感じたのは、古着人気の芯にあるのは「他人と被らないこと」への欲求だということだ。SNSに全員の私服が並ぶ時代、新品の量産服は「みんなと同じ」の記号になりやすい。対して古着は、同じ一着が二つとない。袖の色あせも、裾のほつれも、その個体だけのものだ。古着を着ることは、"世界に一枚"を身につけるという、静かな自己主張になっている。

サステナブル志向も、もちろん背景にはある。だがそれは建前に近く、本音はもっとシンプルだ。かわいい、かぶらない、自分だけのもの。エコは後からついてきた理由づけで、若者を動かしているのは「個であること」への渇望のほうだと、TONEは見る。

ブームの先にある課題

もっとも、街の活況は課題も連れてくる。繊研新聞は、店舗の急増にともなう家賃の上昇にも触れている。人気が街の地価を押し上げ、体力のない小さな個人店が続けにくくなるという、どの人気エリアも通る道だ。古着屋の魅力が「個人の目利き」にあるとすれば、それを守れるかどうかが、このブームが文化として根づくかの分かれ目になる。

それでも、路地を埋める若者の熱を見るかぎり、古着はもう流行という言葉の外にある。次に下北沢を訪れたら、値札より先に、その一着がくぐってきた時間を想像してみてほしい。

参考: 下北沢の古着店の動向・市場規模に関する報道。
出典:繊研新聞「〝古着の街〟下北沢の客層が変化」 / ダイヤモンド・オンライン「Z世代を中心に巻き起こる『第2次古着ブーム』」