カフェの窓際に、手のひらサイズのぬいぐるみが座っている。飲み物と一緒に写真を撮ると、連れは何も言わずに待っていて、撮り終わるとまた鞄に戻される。それだけの、数十秒の儀式。ぬいぐるみを連れ歩く「ぬい活」は、いまや街のどこにでもある光景になった。

大きな市場と、小さな支出

推し活はいま、かなり大きな経済圏になっている。推し活総研の「第3回 推し活実態アンケート調査」(2026年1月実施)によれば、市場規模は約4.1兆円と推定される。一方で、アイブリッジが2026年2月に実施した別の調査には、こちらのほうが意外な数字が並んでいる。推し活をしていると答えた人は約3割。そして使う金額は、月1万円未満が7割を超える(74.3%)という。

参考: 推し活の市場規模と支出に関する調査報道。
出典:ネットショップ担当者フォーラム「【推し活調査】市場規模は約4.1兆円と推定。『推し活』しているは3割、使う金額は月1万円未満が7割超」(2026.03.31)

4兆円という市場全体の総額と、月1万円未満という個人の財布。別々の調査から出てきた二つの数字だが、並べてみると、いまの推し活の姿がよく見えてくる。

桁違いの熱狂ではなく、日常の一部

語られるときの推し活は、たいてい極端だ。何十万円もつぎ込む、遠征を繰り返す、部屋を埋め尽くす。もちろんそういう人はいるし、だからこそ記事になる。けれど数字が示しているのは、大多数の推し活がもっと静かで、生活の範囲に収まっているということだ。

月1万円未満というのは、サブスクを何本か足したくらいの金額に近い。つまり多くの人にとって推し活は、財布を壊す道楽ではなく、生活に組み込まれた定額の楽しみになっている。TONEが面白いと思うのはここだ。推し活は熱狂の代名詞から、家計の一項目へと着地しつつある。特別なことではなくなったからこそ、市場としては大きくなった。

物価高でも、削られないもの

この構造は、今年の消費全体とも重なる。日本経済新聞が報じた2026年上期のヒット商品番付では、物価高が続くなかで、コスパのよい商品と期間限定のイベントに消費する傾向が目立ったとされている。守るところは徹底的に守り、それでも好きなものには使う。この二つは、別々の人ではなく同じ人の中で起きている。

参考: 2026年上期の消費動向に関する報道。
出典:日本経済新聞「2026年上期ヒット番付、横綱は『ホルムズ・ショック』『ポケモン30周年』」(2026.06.02)

推し活が「月1万円未満」に落ち着いているのは、熱が冷めたからではないだろう。むしろ逆で、長く続けるために、自分で上限を決めているように見える。財布のなかに小さな聖域を作り、そこだけは削らない。ぬいぐるみを鞄に入れて出かけるという、お金のほとんどかからない習慣が広がっているのも、同じ発想の延長にある。

推しにいくら使うかは、その人の熱量とは関係ない。今日も誰かが、コーヒーの隣に小さな連れを座らせて、写真を一枚だけ撮っている。