休日の原宿で、ふと目を引く髪型がある。頬の横でくるんと巻かれた触角のような後れ毛、大きなリボン、透明感のあるぷるんとした唇。どこかで見たことがあると思ったら、それは雑誌のモデルではなく、少女漫画のヒロインだった。ページの中にいたはずの女の子が、現実の街を歩いている。
予測ワードとしての「少女漫画コア」
SHIBUYA109 lab.が発表した「トレンド予測2026」のファッション・ビューティー部門には、「少女漫画コア」という言葉が並んだ。少女漫画のキャラクターの髪型やファッションを現実の着こなしに取り入れるスタイルで、アイドル衣装コスや、00年代作品の再評価と同じ流れにある。同ラボはこの動きを、Y2Kブームが「ギャルから平成女児へ」と若年化した先の深化と位置づけている。00年代の少女漫画やアニメに親しんだ・あるいは後追いで出会った世代が、その世界観ごと身にまとい始めたのだ。
知らない時代を、なぜ懐かしめるのか
興味深いのは、この懐古の主役たちの多くが、当の作品のリアルタイム世代ではないことだ。生まれる前の漫画のヒロインを「懐かしい」と感じる。矛盾しているようだが、TONEはここにこのブームの核心があると見る。彼女たちが再生しているのは記憶ではなく、世界観だ。SNSの評価にさらされ続ける日常から見ると、少女漫画の世界は、キラキラした画面の中で感情が肯定される、安心して「参加」できる場所に映る。ノスタルジーはもはや思い出の再生ではなく、過去という素材を使った編集作業なのだ。
背景には、SHIBUYA109 lab.が2026年の全体テーマに掲げた「アテンション・デトックス」がある。不特定多数の視線に疲れた世代が、フォロワー数や映えの競争から降りて、自分の好きな世界観に没入する。少女漫画コアは、他人の評価軸ではなく「私はこの物語の住人でいたい」という選択であり、コスプレというより生き方のチューニングに近い。
「かわいい」は、いちばん強い文化になった
原宿発のkawaiiカルチャーが世界に輸出されて久しいが、少女漫画コアはその最新形と言える。漫画という日本固有の資産から、髪型・メイク・服のディテールを引き出して現実に実装する。韓国では日本的な感性を指す「日本感性」という言葉も生まれており、この編集感覚は国境も越え始めている。
ページの中のヒロインは、いつの時代も「なりたい自分」の原型だった。それを空想のままにせず、月曜日の通学路に着ていってしまう。この距離の詰め方こそ、いまの若さの形なのだと思う。
参考: SHIBUYA109 lab.によるaround20(15〜24歳)女性401名への調査に基づくトレンド予測。
出典:SHIBUYA109エンタテイメント「SHIBUYA109 lab.トレンド予測2026」(PR TIMES, 2025年12月) / 日経クロストレンド「26年若者トレンド予測 デカドリンク、sago、少女漫画コアって何?」