居酒屋やバーのドリンクメニューを開くと、以前よりずっと厚みを増したページがある。ノンアルコールのカクテルやビールテイスト飲料の欄だ。「とりあえずビール」が合言葉だった時代からすると、静かだけれど確かな変化が起きている。飲めないのではなく、あえて飲まないことを選ぶ人が増えているのだ。
「ソバーキュリアス」という名前がついた生き方
この動きには、もう名前がついている。「ソバーキュリアス(sober-curious)」——直訳すれば「しらふに好奇心を持つ」という、海外発の言葉だ。日本の市場も数字でその広がりを裏づけている。ノンアルコール飲料の国内市場は2024年に4584万ケースに達し、前年比11%増、10年前と比べて1.6倍の規模に拡大した。サントリーは2025年に社内へ「ノンアル部」を新設し、マーケティング費用を前年比およそ1.3倍にあたる約50億円へ引き上げ、自社のノンアルコール飲料事業で2030年に700億円規模を目指すという。同社の見通しでは、市場全体も2030年に1,400億円、将来的には8,000億円規模まで拡大する可能性があるという。
「やらない」ではなく「選ばない」という意思
TONEが以前取り上げた「静かな退職」と、この動きは構造がよく似ている。がんばらないのではなく、がんばる範囲を自分で引き直す。同じように、お酒を飲まないことも、我慢や排除ではなく、自分の基準で選び取った結果になってきている。今日読んだ博報堂生活総研の分析にあった「みんなの最適解から、自分だけの正解へ」という言葉が、まさにここに重なる。飲み会に参加すること自体が"みんなの正解"だった時代から、その日の体調や気分に応じて飲む・飲まないを自分で決める時代へ。断る理由をいちいち説明しなくてよくなったことが、いちばんの進歩なのかもしれない。
ノンアルコールの一杯を選ぶことは、もう「付き合いが悪い」のサインではない。むしろ、周りに流されず自分の基準を持っていることの、静かな表明になっている。
お酒の隣に、もうひとつの居場所ができた
お酒をやめる、という話ではない。お酒の隣に、飲まないという選択肢が対等な顔で並んだ、という話だ。次に誰かと飲みに行くとき、隣の人が持っているグラスの中身を、詮索せずにいられたら。それだけで、その場はずいぶん自由になる。
※ 飲酒は20歳になってから。適量を心がけ、飲酒運転は絶対にやめましょう。
参考: ノンアル市場、10年前の1.6倍に。サントリー推計。
出典:nippon.com「ノンアル市場10年前の1.6倍に―サントリー推計」 / 日本経済新聞「サントリー、ノンアルのマーケティングに50億円投資」 / ITmedia ビジネスオンライン「『ノンアル=お酒の代替品』から脱却へ サントリー、50億円投資の本気度」